The Gardens Between レビュー 親友と人生が重なり合った一瞬の、宝物のような物語

The Gardens Betweenタイトル

開発はオーストラリアのThe Voxel Agents。iOSで2019年に配信された謎解きゲーム。

思い出を巡る系のパズルゲームはちらほらあるけれど、これは過度に感傷的でもなく、置いてけぼりにもならず、プレイ後に心地よい切なさを残してくれる。

映画Stand by meを観た後のような。

考察するには、描かれているものは誰の目にも明解だと思う。

そこで、ここでは個人的な感想全開のレビューに留める。

ネタバレなので注意。

 目次

世界中の大人に刺さる、無国籍な世界観

どこかで見たことがあるような世界と道具が登場する。

「子供時代の記憶」がテーマだけど、時代設定は1970~80年台生まれに刺さるくらいじゃないだろうか。

電柱や電線が空を横切り、団地の横を通勤電車が走り抜ける光景は日本のようにも見えるが、家具や道具のデザインには外国の趣がある。

メインキャラクターはアジア人風だが白人でも通るようなビジュアル。

世界中で配信できるよう、あえて無国籍感を残している印象。


ArinaとFrendt

勝気で大胆な女の子(Arina)と、ちょっとオタクっぽい少年(Frendt)という2人の組み合わせ。

二人とも、学校にいればクラスからは少し浮いた存在なんじゃないかな、と思わせる絶妙なデザイン。

(Frendtは意外と友達が多そうだけど、Arinaは一匹狼なんじゃないかな)

二人は秘密基地を作ったり、夜に家を抜け出して冒険したり、

一緒にファミコンゲームをしたり、ソファを簡易映画館にしてダラダラ過ごしたり、

子供たちが憧れるようなたくさんのことをやってのける。

それはきっと、Arinaの行動力とFrendtの機転が合わさって初めて可能になったものだ。

ともすれば孤独で退屈なものになったかもしれない、少し変わった二人の子供時代は、この出会いによって輝きはじめた。

恥ずかしながら打ち明けると、途中でArinaがジャケットをなくしてしまったときは、思春期的な意味で、ちょっとドキドキさせられた。

Frendtよりも少し背の高い彼女は、ジャケットを羽織っていると男の子にも見えたけど、

ジャケットの下の細身の身体と胸の形があらわになり、女性を意識させるフォルムに変わったからだ。

お互いを異性として意識し始めた頃、という意味にも取れたんだけど……どうだろう。


誰の心の中にもある大切な記憶と響くストーリー

情緒なく単純に言ってしまえば、Arinaが隣に引っ越してきたことに始まり、Frendtが引っ越して行ってしまうことでしめくくられる二人の友情の物語だ。

ただ、二人が共有した体験の豊かさと美しさが、きらめきを物語に与えてくれる。

心の芯まで波長の合う親友と人生が重なり合った一瞬の、二人にとって宝物のような時間だったのだと思わせる。

冒頭でStand by meを出したのは、それがクリスとゴーディの関係性にも通じるところがあるからだ。

誰に強制されたのでもなく、誰かにあえて語るでもなく、自分たちの中で完結する思い出は、もう取り戻せない。

だからこそこの物語が美しく、誰の心の中にもある大切な記憶と響く瞬間がある。


協力プレイなのにソロプレイ? 新しい謎解きの形

「再生と巻き戻ししかできない」というシステムは、思い出を辿る旅というストーリーにマッチしている。

鐘を鳴らしたり、道を作ったりという一部のアクションは、二人が思い出すための少しのキッカケ、手助けなのだろう。

パズルは単純で、深く悩ませることを意図して作られていないと思う。

プレイヤーとして介入できることは少ないのだが、二人が思い思いに行動し、手を振り合ったり、顔を見合わせて頷いたりする姿は見ていて楽しい。

巻き戻しが長くなる一部のシーンはやや冗長に感じたし、ステージ内の途中セーブがないため、短いとはいえ一面を一気にクリアしないといけない仕様は若干のストレス。

短い2~3のステージをクリアして初めて思い出が一つ繋がる、という仕様は、先へ進むモチベーションを程よく高めてくれた。


あっけないラストは、ちょうどよいリアルさが心地いい

よくあるポイントクリック系の3D脱出ゲームだと思っていたので、「二人で探索ってどういうこと?」という興味でインストール。

チュートリアルを終えた段階ではどう面白くするのか予想がつかなかったが、なるほど、8割くらいはギミックやキャラの動きで楽しませてもらった。

「美しい思い出」というテーマは、感動の押し売りの匂いがして少し構えてしまう。

そのため、あまり感情移入せずに進めて行ったのだが、

最後まで一貫して変わらなかった二人の信頼とちょうど良い距離感が好ましく、

またラストもあっさりと描いていたのが気持ちよかった。

思い出って、子供にとっては体験しているその瞬間が一番素敵なもので、しかも自分にはどうしようもなく過ぎ去ってしまうものだと思う。

じっくり思い出して美化したり、感傷的になったりするのは、大人になってからだ。

それはもはや生の体験ではなく、余計な感情や別の視点が入り込んで、再構築されてしまう。

二人が見えたものだけを、二人の背丈に合わせて描き、あっけなく終わらせるちょうど良いリアルさが、The Gardens Betweenを心地よいゲームにしてくれた。