Playdigious’ The Almost Gone 考察メモ、ネタバレ感想

The Almost Goneタイトル

「The Almost Gone」はPlaydigiousから2020年6月に配信されたゲーム。

多くのプレイヤーを悩ませたであろうストーリーの謎の考察をしていく。ネタバレなので注意。

※2020/7/5にnoteに投稿した考察記事を加筆、修正したものです。

 目次

なぜ「私」はLimboに囚われたのか?

ヒトのいない、少し不気味で小さな世界を、「私」と家族の思い出を見つけながら巡る旅。

そう言うと聞こえはいいが、「私」の目の前で両親の不仲を見せつけているような描写があったり、家中に空の酒瓶が隠されてたり、精神病棟の書類が見つかったり……とちょっと特別な家庭であることが序盤から明かされてしまう。

では、機能不全家族が思い出から幸せを取り戻すストーリーかというと全くそんなこともなく、場面が進むにつれ祖父母の代からの根深い虐待の連鎖が描かれ、物語は混沌としていく。

舞台は精神病棟へ。霊安室にママの遺体が……! とクライマックスに至ったところで、パパに導かれはじまりのツリーハウスへ。

ついに全ての真相が明かされる……と思いきや私「眠くなっちゃったわ」突然の終幕。この展開には、エンディングまで進めたプレイヤーのほとんどが呆気に取られたのではなかろうか?

その謎を解き明かすため、もう一周し、翻訳のニュアンスを確認するため英語版でさらにもう一周したが、周回要素や隠しエンドはなかった。

最終的に辿り着いたそれなりの結論は、「ツリーハウス=Limbo=辺獄からの脱出」--死に誘う父と、生きる意味を見つけられない娘の命の交わりと対立というテーマだった。


時系列

(ゲーム開始前)パパは娘である「私」をコントロールしたかったが、どんどん自分から離れて成長していく「私」を恐れ、「私」を道連れにして心中。

パパはあの世とこの世の狭間(Limbo=辺獄)であるツリーハウスで無限の時間「私」と暮らそうとしたが、「私」が現世に近づき生き返りかけたため、急いで妨害するギミックを作り上げ、「私」をここに閉じ込めようとした。

(ゲーム本編)しかし、「私」は家から脱出、悪夢のような近郊からも逃げ出してしまい、ついにパパの記憶にリンクして過去を見る。そこでパパの狂気を知る。

パパの記憶にあった精神病院の模型から、自分の死後に起こりうる近い未来の病院にリンクしてしまい、ママの無残な未来を見ることになった。

「私」はそこでママの愛を自覚、このままでは近い未来ママも死んでしまうことに気づく。

パパは最後の抵抗として小舟を作り、「私」をツリーハウスに戻す。

しかし、真実を知った「私」はパパとともに死ぬ未来と決別し、ママと生きる未来を選んだ。ツリーハウス、そこにはもはやパパの姿はない。生きていれば実現するはずの自分の未来しかそこにはない。「私」はあの世で眠りに落ち、現世に戻る。


登場人物

とはいえゲーム中に人間は誰も出てこない。プレイヤー=語り手の「私」のセリフの中で語られるだけだ。

 若い女性と思われる。名前はエミリー。星に興味がある。

 Act.5に出てくる黒板の内容は高校以上レベルなので、17歳くらいか。ただ、キャンプ場の寝袋のサイズは、まだ12歳くらいのようにも思える。

 パパから建築士になることを期待されていた。本人はあまり乗り気ではなかったが、言い出せなかった。

 長いこと飲食をしていないが、それを気に留める様子もない。

 ママ

 アル中で精神病院通いだが、家族(娘)には隠していた様子。物書きの仕事をしている?(趣味かも?)

 パパとの関係は冷え切っていた。娘には内緒だが、離婚調停中であり、娘の親権も手放そうとしていた…と取れる書類が見つかる。

 娘にはキャンプに行かず本を読んで過ごしてほしいと思っていた。

 「一年後」、入院した精神病院において、オーバードーズで自殺することが示唆されている。

 パパ

 建築士。「実現不可能」なデザインが多くプロジェクトの多くが却下されていた(英語版で記述を確認)。

 娘を何度か森へキャンプに連れて行っていた。

 子供の頃、両親(エミリーの祖父母)の仲が悪く、自身も首吊りの妄想をしたり、小動物を殺すなど精神的に不安定だったようだ。立派な部屋を与えられる一方、食事は冷凍の流動食ばかりで、まともな生育環境ではなかった様子。

 家で暴れた罰として父親に地下室に監禁されたことがある。

子供の頃から「ツリーハウス」の構想があった。本は集めるだけで読まない。

 おじいちゃん

 父方の祖父。高名な建築士で、名前はマイケル・G。住んでいる地下一階~四階建のアパートと、ママが通院する精神病院は彼の建築。

 建築した博物館の倒壊事故で死者を出し、晩年はその原因究明と賠償に追われていた。その後失踪したとされているが、病気で倒れたのちろくな治療も受けず、自宅アパートの四階でほぼ軟禁状態のまま死亡した様子。そのことはパパのみが知っており、孫のエミリーには知らされなかった。

 見栄っ張りで浮気性。本をよく読む。ヘビースモーカーでもある。

 おばあちゃん

 父方の祖母。時系列は不明だが、おじいちゃんの存命中に亡くなり、それからおじいちゃんは人が変わってしまったらしい。

 料理はしない。見栄っ張りな点はおじいちゃんと似ていたよう。

エミリーの家の洗濯機を信用していなかった。(ママを見下していた?)

 近所の人々

 ギミックの中で人形としてしか登場しないが、エミリーが知っていた人物もいる。

 ・落書き少年

 夜な夜な街を徘徊し、知性も芸術性もないスプレー落書きをしていた。豪邸に刑務所から絵葉書を送っている。自分の家なのか、それとも犯行予告か…?

 ・女性建築士と女性カメラマン

 ルームシェアかカップルかは不明。建築士はパパと似たようなデザインをする。パパは娘にその存在を教えていなかった。カメラマンはパパラッチのようなことをやっている。

 ・警官と妊婦の夫婦と飼い犬

 エミリーは女性を見たことがある(その頃から妊婦だったかは不明)。飼い犬は近所で唯一エミリーに優しかった。

警官の人形は横転炎上した車から見つかり、妊婦の人形はその手前の道路で、道路脇の排水溝から見つかり、近くには新品のベビーカーが転がっている。彼らの住居と思われる家には、オムツもないのに、空のベビーベッドだけが……

 ・死んだ男の子

 死因は不明。その子が死んだ時エミリーは悲しんだ。ジュニア・サイエンス・デーのジオラマが一位を獲ったことで授賞式に招待されており、科学に通じた子だったようだ。家には他にも男の兄弟がたくさんいた様子。

なぜか家はひどく壊れており、中に落書き少年のものと思われるスプレー落書きがある。


Actと称号(アチーブ)

Act.1 自宅 そのすぐ後

 アチーブ「我が家に勝る場所はない」

Act.2 郊外 1時間後

 アチーブ「一方通行」

Act.3 アパート 30年前

 アチーブ「真実のルーツ」

Act.4 病院 1年後

 アチーブ「祈りを捧げて」

Act.5 森 数分前

 アチーブ「真実が語られるとき」

その他のアチーブ

 5時間プレイすると「Lost in Limbo」

 Limbo=辺獄 現世と地獄の間の世界?


と考察メモ

 ・Actと共に表示される時系列の基準(何のすぐ後で、何の一年後なのか)

 エミリーがLimboに来てから?エミリーの感覚では、もっと時間経過しているようにも取れる。「数分前」は一体?

→主語がそれぞれ異なる(エミリーが「死んだ」すぐ後、エミリーが「生き返る」数分前)

 ・この世界は「パパが突貫工事でエミリーの妨害をしている」?

→実現不可能なツリーハウスが完成している

→Act.1では直前までパパがいた気配、走り書きのパパからのメモ(30年前の箱と同じ。骸骨が女の子に差し替えられている。パパの犠牲者は小動物から女の子に変わった?)

→Act.2は急いで作ったようなハリボテ、「いかにもパパが考えそうな」ギミック

→Act.3はエミリーの生まれる前の記憶

→Act.4では庭の柵の木で作った、ペンキ塗りたての小舟

→Act.5でパパとの思い出のキャンプ場は綺麗なままなのに、本屋(ママの象徴)と学校(エミリーが建築士ではなく天文学の道に進んだことの象徴)が荒れている

 ・時間経過がはっきりしない

 すごい勢いで回る時計

→あの世の一瞬が現実世界の1時間? 現実世界の時間経過とリンクしていない?

 30年前のアパートの地下に来たはずが、一階に来た時点では数年前のエミリーの記憶と混在している

→パパとエミリーの影響が混じり合っている?


Act.1

 ・「エミリーの名前が書かれた大量の空き箱」の意味

→エミリーとパパが死んだ後の世界。ママは死んだ娘の荷物を捨てようとしてできなかった。パパの私物は一部処分済? エミリーが生きていた時よりママの病状は悪化していた?

・二階トイレ(バスルーム?)が虚無(黒いヘドロのようなものをそう呼ぶ)に満たされている意味

→Act.4を見るにママが自殺未遂をすることになる場所か。この瞬間ママが自殺未遂を起こしている?

→木に括られたザックがパパに首を括られたエミリーの暗喩?

 ・ザックを木に結んだのはママ?(パパがそう見せかけた?)

→パパとエミリーは首吊りで心中? ママの病気が悪化したことによる、悪夢の再現行動?

Act.2

・自宅のハリボテがトラテープに囲まれている(警察の検証中のよう)

 テーブルに「証言記録」あとは読めない

→パパと私が心中して事件化? それより時間がかなり経っており、ママが自殺未遂騒ぎを起こして入院した後の現場検証だろうか。

 ・犬なんか飼ったことないのに犬小屋あり 

 犬の墓も外にある。私が産まれる前に買っていたかもしれないが、両親は言わなかった

 鳥小屋の鳥はお腹を空かせて死んだ?

→パパと私が死んだ後にママが買うことになる。もしくは、エミリーが産まれる前に飼っていたが、パパが殺してしまった。危険な衝動があるパパを見て子供を産むのはやめにしたのに、間違いで身籠ってしまった?

・パトカーが木に飲み込まれている トラテープに囲まれているので検証中?

・値札がついたままのバッグとベビーカーの意味? 嘘の世界だから本物を設置できなかった

・男の子は落書き少年が殺した? 落書き少年はパトカー事故を起こした?

Act.3

・地下室の落書きは虚無と人。ツリーハウスらしきものの下に人型が2人。

・閉鎖されている1Fの意味?

→おばあちゃんがそこで自殺したと邪推できなくもないが…

・成長する木の根の意味? 天国に近づいているのか

Act.4

・テレビに映っているのは自宅。警察がたくさん。浴室に血だまり? 手首を切ったか、ギミックと同じく感電自殺か

 ・木の板に謝罪の字を書いたのは誰だ?

→日本語訳は女性的な表現。字はパパのメモの字と似ているが大文字ではない。

Act.5

 ・望遠鏡から見えるのは過去の部屋? 現世の部屋?

 ・なぜ自宅で見たのと同じものが古くなっている?

→ここで私が長期間過ごしたということ? なぜママが送った荷物が? 私の過去なのか、未来を覗き見ているのか…?


小ネタと感想

・Act.2のドアでジェネレータを回さなくても色ランプの仕掛けが作動するのはおそらくバグ。(新バージョンで修正済?)地下でライターを取らずに進めてしまうが、次の風呂場で詰む。無限に動くクローゼットもバグっぽい?

・ゲームの進行とともに伸びる木の根、過去へと続くエレベータ、覗き合う望遠鏡などは、名作脱出ゲームシリーズ「Rusty Lake」のオマージュかもしれない。

シナリオライターのJoost Vandecasteele氏はベルギー人。ベルギーといえばRusty Lakeシリーズを開発したオランダの隣国で、文化も近い。

・この解釈でもあまりハッピーエンドとは言えない。パパの狂気から解放され、娘を失って初めて娘への愛情に気づいたママが、まともに戻ることを期待して……

・このシナリオに前向きな意味があるとすれば、「現世に良いことなんてないぞ」としつこく見せつけるパパに、「良いことなんてないんだけど、もっと最悪の事態(ママの自殺)を避けるためなら、私は現世に戻る」というエミリーの意思が勝ったところだろう。祖父母の仕打ちを見るとパパも被害者なのだが、エミリーが連鎖を断ち切ることを願って。