Playdead’s INSIDE 考察、ネタバレ感想

INSIDEタイトル

Playdeadから2016年にリリースされた探索アクションゲーム「INSIDE」のネタバレありレビュー、感想、考察。

※こちらは、noteで2020/7/5に投稿した記事に、iOS版のAppStoreに投稿したレビューを含め、加筆、修正したものです。

 

 目次

これは、生々しく描く生死の物語

キャラクターたちの繊細で生々しい動きがゲームプレイを飽きさせない。考察できるだけの情報を豊富に与えてくれ、適度に謎を残すストーリーもたまらない。言葉が一切ないにもかかわらず、画面の情報量が圧倒的。

リアルな光・空気感・環境音による臨場感。水底に届く弱い光、カッと明るいライト、心に染みる陽射し、むせ返るような湿気や臭気すら伝わってくる。

最後まで予想のつかない展開が、恐怖と期待感を膨らませてくれる。後味が悪い、希望がある、どちらの意味とも取れる丁寧に練られたプロットは奇跡のようだ。


ラストシーンは死なのか

衝撃のラストシーンは論争を呼び、さまざまに考察されている。

多くのサイトや、英語版のWikipediaなどで書かれている「水槽の中にいたブヨブヨ=卵子」「主人公=精子」「INSIDEのキーとなる水槽突入シーンは、卵子に突入する精子のメタファー」という説は、間違いないと思う。問題はその先だ。

ラストシーンである「河原」で、主人公と一体化したあのブヨブヨが「死んだ」のか、「生きている」のか。

あれは間違いなく生きている。そして、「これから産まれる準備を始めている」。


安らぎの光が包む河辺で

まず前提として、生物学的な、われわれ人間の出産の仕組みを確認しておく。

精子が卵子に出会う場所は、子宮から卵管をさらに奥に進んだ先だ。そこまでたどり着いた、原則一つの精子だけが、卵子に「受精」する。

その後、「受精卵」は 精子が進んだ道(卵管)を逆行し、やがて「子宮」に到達する。そして子宮に「着床」することで、妊娠が成立する。

さて、あの研究所全体が、女性の胎内を模したものだと考える。

「死に戻り」で無数に使い捨てにされる主人公が精子のメタファーだとすると、ただ一つ生き残った彼は、あの水槽の中でブヨブヨ--卵子に「受精」したと考えられる。

水槽を出たブヨブヨが、走ったり壊したり燃やしたりするあのデタラメな逃走劇は、「卵管を通る受精卵」を意味している。

到達したラストシーン、あの光の差す河原こそが「子宮」である

彼らはあの場所に、無事「着床」したのだ。つまり、あの時点で「妊娠が成立」したわけだ。

事実、スタッフロールの瞬間までブヨブヨが僅かに動いているのが見て取れる。あの安らぎの光は、天使のお迎えを待つ臨死状態に見えなくもない。しかし、あれはむしろ新しい生命への祝福の光なのだと思う。

ラストシーンの河原は、まだ「外」ではない。研究室内でジオラマとして展示されている。あの場所は元々、子宮として準備された場所なのだろう。

おそらくあの場所で、ラストシーンの後にブヨブヨは受精卵から胎児に成長し、産道を通って真に「新たな生命として産まれる」のだろう。


機能する生命のシステム

この物語は最初から最後まで、荒廃した世界における、新人類誕生のための実験だった。

明らかに「ギリギリクリアできる」ように設定されたパズルは、選り抜きの精子=主人公を見つけるための試練で。

終盤でブヨブヨに集る研究員たちは、奇跡的に完成した卵子を見守っていた。(もしかしたら、他の精子のメタファーかもしれない。) 

ブヨブヨは自由になりたかったというよりも、「生命のシステム」として「子宮に向かって進み」始めただけなのではないか。

ただ、ブヨブヨの逃走劇は、もしかしたら研究室側は想定していなかったことかもしれない。研究室側が整えた手筈としては、受精卵であるブヨブヨが、研究室側に用意されたルートを通ってラストシーンの場所=子宮に到達するはずだったのかも。

しかし、「精子の辿った道を逆行する」という意味ではあれで正しいし、ゲーム内でも結局、あれは子宮まで誘導されたわけだ。


余談だが、もう一つの(文字通り)衝撃的なギミックである「衝撃波の部屋」は、明け透けに言うと射精のメタファーなのではなかろうか。必要な数に「達しないと」あの扉が開かないとか、勢いとか、云々。(このレビューがいかがわしいページとして認識されないことを願う。)

人魚(?)の助けにより、水中で呼吸できるようになる場面は、膣内へ至ったことを意味するのかもしれない。


胎内から、再び産まれる

最初の新人類の「妊娠が成立」したからこそ、INSIDEのゲーム部分である、「生命誕生プロジェクトの受精段階」は打ち切りになり、新たな主人公は不要になった。

おそらく、卵子や子宮がまだ一つずつしか存在しないから。

だから、一周目をクリアした後だけに辿り着けるあのアナザーエンドは、プロジェクトの第一段階の終焉を意味する。

INSIDEは、研究所が創造した新人類の妊娠に成功するまでの物語なのだ。

その小さな身体でおそろしい旅を乗り越えたあの少年はいま、INSIDE the womb--胎内で、新たないのちとしての誕生を待っている。