ボクはあの日、降り注ぐ流星を見た。
マイダーケストモーメント(My Darkest Moment)は、「chilly room」から2022年2月にiOS / AndroidにてリリースされたSF・ホラー風パズル/アドベンチャーゲーム。(iOS App Storeへのリンク)
謎が謎を呼ぶストーリー。また、このタイプのゲームとしては珍しく、スリングショット操作で解くパズルをメインに据えた作品。

本記事では、作品レビュー(ネタバレなし)と、ネタバレ含むストーリー考察を掲載する。
目次
物悲しくも前向きなSF「マイダーケストモーメント」アプリレビュー
注:iOS App Storeに2022/3/6に投稿したものの加筆・修正版です。

幻想のような空間を、ただ前へ前へ歩き続ける「ボク」。
彼は、「誰にも触れられない」孤独に苦悩し、現実と幻覚の狭間のような世界を行き来する。
プレイヤーが彼にできることといえば、ただ時計の針を先に進めることと、パズルを解くことだけ。
不思議な世界観は一見孤独のメタファーのよう。でも、ベースとなるストーリーは割とSFしてる。
パズルの難易度は低く、失敗したら直前からやり直しもできる。ホラー描写はマイルドで怖がりも安心。
エンディングまでは30分程度だが、クリア後にちょっとしたオマケあり。(ただしバージョン1.0.1ではオマケの途中までしか進めない。)
特にパズル周りで作り込みの甘さは感じるが、物悲しくも前向きなラストが印象的な良作。
「マイダーケストモーメント」ネタバレ考察
ここからネタバレあり。一周目(エンディング)までに読み取れるストーリーを中心に考察していく。
エンディングまでプレイ済の方は下へ。
Caution!! [SPOILER] below...
※注意※
2022/3/6時点のiOS最新バージョン1.0.1をベースにしています。
時系列
- 平和な世界で目立たないように生きていた「ボク」
- ある日流星が降り注ぎ、世界が荒廃
- ボクを含む生き残りの人々は、とんがり帽子(流星の犯人)に支配される
- ある配給の日、ボクは怪物に喰われそうになる
- 命からがら逃げた先で、とんがり帽子の魔法の源「緑の宝石」を見つけ、とっさに盗み出す
- 家に帰り着いたボクは、緑の宝石の力で時間を巻き戻す
- 世界は平和に戻ったが、代わりに「流星が降り注いだ世界の『ボク』」という存在が緑の宝石ごと消えてしまう
- 緑の宝石は力を使い果たして割れてしまい、ボクの魂だけが次元の狭間(無の世界)に落ちていった……
- 「時が流れ 道が現れた」 ←ゲーム冒頭
- すべての記憶を乗り越え、ボクは「誰も行ったことのない場所」へ辿り着く。ボクの世界はここにある。たとえ、かつての世界から一千光年離れていても。
「流星」とは何か
とんがり帽子たちによる最初の攻撃であり、世界を荒廃させた原因。
それがわかるのがこのシーンのセリフ。

世界が灰色に包まれいく
目眩の中 人混みが徐々に消え去り 流星が降り注いだのを ボクは見ているはずだ
– マイダーケストモーメント
この後、人混みにいた人々はゾンビのようになってボクの背後から迫ってくる。
そしてこのシーンこそが、プレイヤーが操作する孤独な「ボク」が生まれた瞬間でもある。
なぜ鼻が伸びるのか
「鼻が伸びる」と言われて思い出すのは、やっぱり「ウソをついたキノピオ」のお話。

「ボク」は、謎の人物との対話後にその場所を離れると、道にうずくまってしまう。そしてこう語る。
偽りで心をごまかし 鼻は日々伸び続けていた
– マイダーケストモーメント
つまり、彼は自分の心についたウソで鼻が伸びてしまうのだろう。もしかしたら、本当は伸びていないのに、ボク自身がそう感じているだけかもしれない。
ウソの正体ははっきりしないが、
騒々しさが苦手なのに無理やり大衆の中に溶け込もうとしたり、本心を隠して人に迷惑をかけないよう努力したり、
そういった辛さがごちゃ混ぜになったものなのかもしれない。
そんな「ボク」だが……エンディングの廃ビルの屋上では、鼻が短い真実の顔を取り戻している。
そこではもう、自分を偽らなくても生きていけるということだろう。
「キミ」は何者なのか(会話相手の正体)

再びさまよい続け それでもキミのことを思い出す
– マイダーケストモーメント
壁の向こうでボクが対話する相手。この異常空間で唯一ボクに干渉できるとは、一体何者なのか?
……結論から言うと、「ボク」の一人芝居である。
なぜ鼻が伸びるのか?でも書いたように、ボクはこの会話の直後、自分にウソをつく辛さで座り込んでしまう。
『何か食べる?』『準備するよ』と言いつつ、実際食事が出たのは記憶の中だけ。
記憶の中で配給をもらうボクの姿は、壁から出て行くボクとリンクしている。でも、こちらの世界のボクは手ぶらだった。(記憶の中でも怪物に襲われて食べ逃すけど)
この会話シーンの音にも注目。ボクが話すたびに、紙にペンを走らせるような音がする。(顔文字も出てくるので、この会話はおそらくチャットか筆談。)
そして、キミの言葉が出る時も、全く同じ音が聞こえる。
壁の向こうでは、実体のないキミと会話するつもりで、一人文通をするボクの姿があるのかも……
つまり、ボクと自分自身との対話なわけだが、内容は結構重要なことを話していたりする。
『(また鼻が伸びていたけど)こんなにはっきりと感じたのははじめて』→ゲーム冒頭で初めて無の世界に道が現れ、この世界での自分自身の姿がはっきりしてきた
(どんな感じ?と聞かれて)『幽霊みたいに ただひたすら何もない中を突き進む感じ』→ゲーム中のボクは何もない中を進んでいる(他は全部幻覚)
キミのオリジナルとなった存在は、恋人かもしれないし、ボクのボロ家の前にある墓の中の人(エンディングに登場する大人)かもしれない。
とんがり帽子は何者か
荒廃した世界の支配者。「緑の宝石」を使い、魔法じみた超常現象を起こせる。
緑の宝石の書を使った集会場では、おかしな問答をしている。事実を捻じ曲げたり、洗脳したりする力もありそうだ。

生き残りの人々を救済しているようでいて、結局は「犬(?)のエサ」にして処理していたのだろう。
その証拠が、ボクが自転車に乗ってきたことと、脱出シーンで出てくる打ち捨てられた錆びた自転車の山。


人々は「ボク」と同じように自転車でやってきて、そして──二度と帰ることはなかった。
ちなみに、本作でとんがり帽子たちは「赤」のイメージカラーを持っている。序盤に出てきた赤い電車も、おそらくはとんがり帽子たちのテクノロジーと思われる。
それだけの力がありながら、錆びた自転車で逃げる重罪人を取り逃がすなんて、とんだ能無しである。
もしかしたら、全てを「緑の宝石」に頼り切っていたため、それ盗み出された瞬間に、組織全体が無力化してしまったのかもしれない。
エンディングで何が起こったか

陽が道に射し込み ボクだけが忘れ去られていく
– マイダーケストモーメント
「ボク」は、盗み出した「緑の宝石」の力を使って、平和だった世界を取り戻す。
時間を巻き戻すことで。
宝石を掲げていたボクは、木に果実が実る(正確には果実の実った木に戻る)直前、突然姿を消してしまう。
ボクが消えた後には二人の仮面の人が現れる。
一人の仮面が立っているのは、荒廃した世界でお墓があったはずの場所。立派な家の前に、もうそのお墓はない。
その後ろに立つもう一人の仮面は、鼻は短いし身体は小さいけど、ボクと同じ色の肌。
とんがり帽子から宝石を盗み出したボクが存在してきたのは、流星が降り注いだ後の荒廃した世界だ。
過去が変わって「荒廃した未来」がなくなった瞬間、その存在は消えてしまう。
ボクが世界から消えた後は、パズル画面でいくら緑の宝石にボールをぶつけても動かない。
そしてついには割れてしまう。
宝石と共に、ボクの存在も壊れ、奈落の底に落ちていく──
ボクが暗くて孤独な世界にいる間、わぜわざわざ時計の針を回さないとストーリーが進まないのだろうか?
しかも、時計の針を逆回ししても何も起こらない。巻き戻ったりはしない。
これはプレイヤー自身に「時間は先にしか進まない」と印象付けるためのギミックだと思う。
過去には戻れない。過去は記憶か、幻覚でしかない。時間が戻るとしたら、奇跡が起こった時だけだ。
そしてその奇跡は同時に、ボクの存在を一千光年離れた場所にすっ飛ばしてしまったのだ。
最後に、スタッフロールで「ボク」が立っていた場所(廃ビル)について。
荒廃した世界によく似ているが、
キミもとんがり帽子たちもいない、彼だけの、彼が作り出した別の世界なのだと思う。
無の世界にただ佇んでいた「ボク」は、自分自身の過去を乗り越え、ありのままの自分が存在できる世界についにたどり着いた。
世界線に唯一存在していた緑の宝石は力を使い果たして過去未来永劫割れてしまったので、おそらく、もう平和な世界に流星が降り注ぐことはない。
(※タイムパラドックスが起きている気もするが、せっかく「ボク」が存在を賭けて世界を救ったのに、また歴史が繰り返すのなら余りにも残念。……そういうことでいいんじゃないかな。)
「マイダーケストモーメント」クリア後のおまけについて
実はクリア後にデータ削除してもう一度エンディングを迎えると、スタッフロール後のタイトル画面からクリア後のおまけを楽しめる。
(データ削除せずにもう一度クリアでもいいかもしれないが、試していないので不明。)
バージョン1.0.1時点ではバグで途中までしか進行できないが、気になる人のために軽く内容について触れておく。
クリア後ネタバレ注意!
エンディングのタイトル画面で現れる白いボタン。一周目では押すとゲームが強制終了してしまうが、二周目に押すと時計の針が巻き戻る。
どうやらゲーム本編より過去の、世界が平和だった頃の話のようだ。
ほぼ白黒2色で表現された単純な画面。本編より微妙に難易度の増したスリングショットパズルが6つあり、クリアすると1面につき1シーンだけ前日談(?)が見られる。
しかし言語は中国語な上、各シーンたった一言。
6面全部クリアすると時代は未来に飛ぶが……ここから画面がブラックアウト。進行不可となる。
chilly roomの公式ツイッターにバグ報告のDMを飛ばしておいたが、アップデートを待つばかりである。
3/7追記:chilly roomから返信があった。意訳すると、「まだゲームはアーリープロトタイプなので、開発完了したらイースターエッグとして加えるよ」とのこと。